平成29年6月度句会入選句鑑賞     前川 淳



  ノルマまだ背負って歩く力瘤     今田和宏
  
  老いてますます盛んという言葉をまさに地で行っているようなものですね。
 この場合、ノルマとは何でしょうか。財産、運動量、それとも秀句数のことで
 しょうか、あるいは?それにしても、そのファイトは大したものですね。
 私などは腕は細ってくるし、背丈は縮んで来る。腕力も弱ってくる。力瘤とは
 びっくり仰天…。


  おかめでも気立てのよさで共白髪     田部和幸
  
  辞典によると、お亀とは、ひたいが突き出て鼻が低く、ほおの高い女。醜女。
 もとは、祭礼などでかぶる女の面の一つ、お多福に同じ、とあります。
 世間には似た者同士と言われる一方、美醜でアンバランスな夫婦(カップル)も
 よく見かけます。美女でなくても、気立ての良さが夫婦円満で共白髪まで生き
 る条件だと掲句は詠っています。作者の場合は、イケメンの和幸さんから判断
 して、奥さんはさぞかし美形でなおかつ気立てもよいのでしょうね。

  古今東西効き目絶大袖の下       島田誠一
 
  全くあってはならぬ事象ですが、まさにそのとーり!ほぼすべてのことが、
 袖の下(賄賂)を渡すことによって、それこそ、「すんなり」と解決してしまい
 ます。一般論として、文明国ではこんな事柄は少ないと信じたいのですが。
 自分を少しでも有利に取り計らってもらいたいとと望む人間の欲望はどうしよ
 うもないですね。「尾を振る犬は叩かれず」という言葉がありますね。袖の下
 は嫌いです。

 

  人情が冷めた世間を温める      寺川はじむ
 
  「渡る世間は鬼ばかり」というテレビ番組がありましたっけ?また、ことわ
 ざに「男子家を出づれば七人の敵あり」というのもあり、世の中はまさに殺伐
 としています。この冷たい世間を温めるのは、人を思いやる人情であると詠っ
 ています。作者はきっと人情に厚い人だと信じます。昔、パンドラが持ってい
 た箱を、好奇心から開けたために諸悪と災いがばらまかれたが「希望」だけが
 残ったと言われています。
 この住みにくい世間にあって「人情」と「希望」!いいですね。

 
肩書が取れて世間の目が変わり     稲川恵勇
  
 一流会社で立派な肩書のもとで隆々と活躍をしていた者が退職した場合を想定
 しましょう。在職中はその地域でもそれなりの評価を得ていたが、退職後とな
 ると、在職中の疲れがどっと出て(?)仕事以外のことは何もできない、ごくあり
 ふれ普通の人間ではないか、掛け声倒れだなどというように、世間の見る目が
 どっと変わった、というような現象でしょうか。我々そうりゅう会メンバーは
 そうではありませんが。