平成29年8月度句会入選句鑑賞     島田誠一



  ノンアルコール飲んで付き合い恙なし 太田としお  
  
  ノンアルコールのビールも世に出て久しいが、それなりに市民権を持ち始め
 たようです。下戸の人や女性、又運転者にも好評のようです。但し味はまだま
 だビールには及びませんがね。さて、この句はサラリーマンの鑑というか悲哀
 というか、酔わずとも会社のために必死にお付き合いしている姿を切り取り、
 何とも笑えない光景を詠み込んでいます。
 課題のビールをを上手い目付けで処理した一句で秀逸でした。


 
  少ないが切らねばならぬ散髪屋       奥 時雄

  
  時雄さん一流の「笑える川柳」ですね。髪の薄くなった客の老人とこれで
 切るのかと悩む散髪屋の掛け合い漫才のような光景が目に浮かびます。
 切るという課題で表現はシンプルなのですが、何とも言えない可笑しみ、エ
 スプリが効いています。お見事。

 
  賞味期限切れた男のみすぼらし      村上玄也
 
  物にも人間にも賞味期限はあるのでしょうね。人間に限って言えば賞味期
 限は単に肉体的なものだけではなく、打ち込むものや心の持ち方で生き生き
 した人生を送っている人は沢山おられます。作者はそんな賞味期限切れの老
 後を送らぬようにとの反語を詠まれたのだと思います。皆さんみすぼらしい
 老後にならぬよう川柳に打ち込みましょう。

 

 
  擬態上手都会の森に住みなれる      升成 好
 
  本を正せばれっきとした田舎者も、今や都会に長年住んでいるかのような
 振る舞いで闊歩している人を沢山見受けます。人間てすごい適応能力が有る
 ものです。作者はこれを都会という森への擬態と詠み込んだところがすごい
 です。この擬態一枚上手です。

 

  都会から棚田に夢を植えに行く      今田和宏

  
  自然の少ない都会では貸し農園が流行しているようです。それは単に農業
 好きでは無く都会の息苦しさやストレスからの解放を求めているのです。
 今や休耕田の棚田へ「夢を植えにゆく」のです。この的を射た表現こそが、
 この句の味わい深いところです。お見事。

  
  夕立に背伸びしている蝸牛       田部和幸

 
  「やれやれ」という課題でこんな目付けをしたところが如何にも凄いです。
 夏の蒸せかえるような熱気の中でかたつむりも、恵の夕立にホッとするとい
 う擬人化ですが、これを正直に人間で表現しても全く陳腐な句になってしま
 います。これもお見事。