平成30年5月度句会入選句鑑賞 村上玄也選 |
ばれてから開き直って手に負えず 奥 時雄 バレなければ黙ってそっとやり過ごそうと言う魂胆だったが、バレてしま うと矢庭に開き直って理屈を捏ね出し、事を正当化しようとして、どう言っ ても聞く耳を持たないという図々しい輩は世の中にいるものである。 この句席題であるが、さらりと言ってのけたこれぞ川柳と言った味わいの句 である。 駅弁の文化を消した開かぬ窓 井上輝好 昔は旅行の楽しみの一つに列車の中でみんなで賑やかに駅弁を食べると言 うのがあった。列車が駅に停まると独特の呼び声で土地の特産の食材を使っ た駅弁を売りに来たものだ。今は列車のスピードアップと安全のために列車 の窓が開けられなくなって駅弁を買うという旅の楽しみが奪われてしまった。 まさに日本特有の駅弁文化が列車の窓が開かなくなった所為で消えてしまっ たのである。 窓際を横切る猫の不愛想 萩原大朔 窓際を横切る猫、ちらっと部屋の中をのぞくのだけれど、何の反応もなく そのまま立ち去る様子がいかにも猫らしいと思わせる。それを不愛想と表現 したのは秀抜である。猫の性状を的確にとらえた句である。 生涯を蟻で通した父の汗 稲川恵勇 明治の父という印象を受ける。家族の為或いは仕事そのものの為、苦労を 苦労と口には出さず黙々と仕事を成し遂げた父の姿を蟻で通したと表現した のはお見事。頑固で逞しい父の姿が伝わってくる。 D51の雄姿に負けたズル休み 島田誠一 通称「てっちゃん」と呼ばれる鉄道マニアには乗り鉄、撮り鉄等々、とに かく事鉄道の事となると目のない連中が多い。ましてや長年働いてきた蒸気 機関車が引退するラストランとなれば大勢の「てっちゃん」が押し寄せる。 それほど強い執着を持ったものであるから、ズル休みをしてでも最後の雄姿 を目に焼き付けておきたいと思うのである。 |