平成30年9月度句会入選句鑑賞     島田誠一選



  鈍刀の錆を矜持として生きる     今田和宏  
  
  この句を直訳すれば、切れ味は良くないが愚直に耐える刀のような生き様
 は私の人生のプライド、つまり武器なのだと言っているのだと思います。
 さて、そこで句にインパクトを与えているのが「錆」と言う表現です。
 長年月が人生の浮き沈みや悪しきも良しも絡めとった、まるで垢のように化学
 反応した副産物を錆として捉え、肯定的に又自虐的に詠嘆しています。
 読むものに何か「男の気骨」を匂わせる秀句です。

 
 ポケットの中で拳が震えてる      村上玄也
  
  悔しさを正に臨場的に捉えた名句です。特に下五の「震えてる」の表現で
 句意が一層強調され見事です。悔しさの表現は日本人と外人とでは大いに違
 いますが、先日のテニスの大阪対セリーナに見る如くあからさまに激高する
 セリーナに耐えた大阪が見事優勝しました。ハーフとは言え大和魂を見た思
 いでした。


 気まぐれを今日は許せぬ腹の虫    升成 好
 
  この句のポイントは中七の「今日は許せぬ」です。これによって気まぐれ
 に対する憤懣やるかたない思いが、一挙に読むものに迫ってきます。
 ベテランの作者らしい表現の上手さです。さて、矛先は奥方ですかね。
 
 しんどいを老いのタブーとする二人  伏見雅明
 
  老いは万人に冷酷です。超高齢社会を迎え自身の老後にどう向き合って
 いくか、が問われています。作者はそんな共通の悩みに明るく、微笑ましく
 又逞しく生き抜く術を語っています。特に「しんどい」と言う大阪弁を使っ
 て川柳らしい「可笑しみ」の共通認識に繋げているところがお上手です。

 病室でひそひそ話す保険金      喜田征治

  
  何とも哀れな末期ですね。でも、生身の人間同士、大いにありうる話です。
 課題に対する作者の目付が巧みでぷっと噴き出す可笑しみが溢れていますね。


 悔しいが妻がいなけりゃどもならぬ  太田としお


  悔しいけどその通りです。洗濯、掃除、料理、ご近所付き合い、 どれも
 お任せで本当にどうもなりません。 17音にまともにズバッと表現されると
 迫力がありますね。

 財力に勝る武器などないと知る    奥 時雄

  この句は作者一流の逆説表現だと思われます。財力は確かに大きな武器では
 ありますが、それだけが人生の大部分なんて侘しすぎませんか?と川柳的に問
 うている穿ちの句です。お見事。