平成30年10月度句会入選句鑑賞     稲川恵勇選



  ボケてない証し曜日はすぐ言える   河邉滋郎  
  
  定年を迎え仕事一筋で過ごしてきたのが災いして、やりたいことや居場所も
 見つからず、濡れ落ち葉扱いをされている噂は寂しいですね。でも作者の手帳
 は現役時と変わらぬほどぎっしりとスケジュールが埋まっていてダブルチェック
 を怠らないほどの行動力がまぶしく元気を齎してくれます。介護スケジュールと
 にらめっこの日々ですが、十人以上との会話がボケ防止になると前向きに日々
 過ごしたいものです。

 
 日曜も休むことない介護の手      升成 好
  
  医学の進歩もあって誇らしい長寿国となったものの、要介護の人口比率が高く
 なる現実に将来が思いやられます。老老介護の我が身であるだけに軽みの中にも
 愛が滲んだ詠み手の手腕に感嘆しました。介護の手は単なる担い手ではなくて
 ユマニチュードにもあるようにボデイタッチの会話手段である手であり、優しく
 包み込むことで介護を受ける側に安心信頼を齎す愛の手の大切さを改めて痛感
 してます。

 忖度をうながすような咳払い     木津和敏彦
 
  森友学園のお陰で陽を見た言葉ですが、古来から日本人は生活の知恵として
 違和感もなく現在も活きていますね。 気を損ねてらとんだとばっちりに会うか
 も…と、我先にと同意の手を上げるのをニタリと待っている様を詠みあげた力量
 はお見事という他有りません。
 
 作業服輝いてますボランティア    島田誠一
 
  温暖化が災いして台風が各地に桁違いの被害を齎しました。余儀なく仮設住宅
 に住みながら荒れた住居の後始末に途方に暮れる中、新品の作業服で視察に来る
 大臣と違って、手弁当でのボランティアの甲斐甲斐しい奉仕の作業程被害者にと
 って勇気づけられるものはありません。作業着はまちまちでもその働きはまさに
 輝き と詠んだ作者に大拍手です。

 みみっちいが薬はちゃんと飲んでいる 和住明次

  
  何事も損得勘定をお金で換算するのもどうかと思いますが、人それぞれで人間
 って面白いですね。みみっちいと自覚をしているものの命あってのもの種と医者
 通いをするところをみると結構健康志向で、市井の小市民的な生き様を薬と掛け
 合わせて端的に表現されていますね。当然ながら薬はゼネリックでしょう。


 貯めこんで出すのは舌も嫌と言う   萩原大朔


  金は天下の回り物ものと言う割には縁遠く、ケチ・しびちんの金銭感覚も鈍く
 てオマケに人の好さが売りだけに金銭哲学に徹して貯めこんだ御仁へは妬み、嫌
 味、さげすみもちょっぴり読み取るのは私だけでしょうか。古川柳を彷彿させる
 好みの句だけに、これを枕に江戸落語の小話が聞きたくなりました。